「怪盗X･Y･Z」（横溝正史） | ラバン船長のブックセイリング | 新たなキャラクターを確立させた怪盗X･Y･Z

新たなキャラクターを確立させた怪盗X･Y･Z

「怪盗X･Y･Z」（横溝正史）
（「横溝正史少年小説コレクション
　　　　　　⑥姿なき怪人」）柏書房

「怪盗X･Y･Z」（第1話～第3話）
（横溝正史）角川文庫

「怪盗X･Y･Z」（第4話）（横溝正史）
（「横溝正史探偵小説選Ⅱ」）論創社

御子柴進が原稿を受け取るために
訪問すると、
画家･永利は殺害されていた。
現場には｢X･Y･Z｣の血の文字が。
もしや犯人は都下を騒がせている
怪盗X･Y･Zか？
しかしその怪盗は
手荒なことをしない
紳士怪盗として
名を馳せていた…。

横溝正史が執筆した
最後のジュヴナイルである
｢怪盗X･Y･Z｣。
｢まぼろしの怪人｣｢姿なき怪人｣と同様、
4話からなる連作短篇集の
形態をとっています。

【主要登場人物】
永利俊哉
…画家。何者かに殺害される。
古川三平
…永利が洋行中、留守宅を管理。
ジャン･フローベル
…怪フランス人。
川田春子
…御子柴が怪紳士を尾行した先に
　住んでいた女性。
御子柴美智子
…進の姉。誘拐される。
新宮タマ子
…謎の十円玉を探している女性。
新宮健造
…タマ子の父。
谷口大五郎
…謎の十円玉を探す男。
加納達人
…劇で怪盗X･Y･Zを演じる役者。
音丸一平
…加納の弟子。
高峰早苗
…加納の知り合いの女性。
進藤英吾
…早苗の伯父。
岩本卓造
…進藤英吾のいとこ。
　夫人は加納のファン。
五月あやめ
…人気落ち目の女優。
鬼頭大吉
…真珠王。
鬼頭弥生
…大吉の孫。大吉から首飾り
　｢人魚の涙｣を贈られる。
早川節男
…人魚の涙の管理担当。殺害される。
松山秀子
…人魚の涙の管理担当。
　かつてあやめの代役女優をしていた。
等々力警部…警視庁警部。
三津木俊助…新日報社記者。
御子柴進…新日報社給仕。探偵小僧。

本作品の読みどころ①
まっとうな怪盗｢X･Y･Z｣
本作品の読みどころは｢X･Y･Z｣。
このキャラクターにつきます。
怪盗なのですが、
アジトや大勢の手下を持たず、
予告状を出したりもせず、
したがって
神懸かり的な盗みもしません。
身の丈に合った盗みに
徹しているのです。
しかも最後にしみじみと
述懐しています。
「いかに怪盗X･Y･Z、
　変幻自在、神出鬼没とはいえ
　忍術使いでないかぎり、
　銀行の地下金庫へ
　しのびこむわけには
　いかないからね、あっはっは」。

本作品の読みどころ②
名探偵兼隠密｢X･Y･Z｣
このX･Y･Z、怪盗業よりも
探偵業の方に才能を発揮します。
殺人事件の謎解きを行うのは
御子柴少年ではなく
三津木俊助でもなく
等々力警部でも当然なく、
X･Y･Zなのです。
加えて第2話では
｢謎の十円玉｣を掏られそうになった
御子柴を影からサポートするなど
隠密行動も得意です。
盗みの腕前が披露される場面は
まったく描かれていないのですが、
探偵と隠密としての腕は超一級です。

本作品の読みどころ③
すご腕新聞記者｢X･Y･Z｣
推理や隠密行動の力だけでは
ありません。
特筆すべきはその調査能力です。
それぞれのエピソードで、
推理だけではなく、
彼自身が調べ上げた｢隠された事実｣が
物語を面白くしているのです。
特に第4話では、
人魚の涙に関わる人間を
事前に丹念に調べ上げ、
殺人事件のその場にいなくても、
すべてを推理してしまっているのです。
それに比べて三津木俊助は
事件後もその背景を何も調べておらず、
すべてをX･Y･Z(と思われる人物)から
教えられている体たらく。
これでは新聞記者失格です。